夢の中へ
アルデバランを目指して宇宙を散歩していたら足元がチクチクしたので見てみると、足に荊が絡まっていた。
どうやらこの辺りには宇宙薔薇が群生しているらしい。
その後は荊が絡まらないように足元ばかり注意して歩いていたら、アルデバランを見失ってしまった。
俺は宇宙の真ん中で迷子になってしまった。
※
「現実だと思って見ている世界は実は嘘の世界で、
夢の中の世界が本当の世界です。
本当です。
本当なんです」
可愛いらしいパステルカラーの花のようなドレスを纏った四人組の小人はそう言うと、何処からか流れてきた音楽に合わせて歌い踊り始めた。
「私たちはみんな偶然、原子が集まって出来た腫瘍みたいなもの。
生まれて消えるまでの芥。
形あるという事、それが苦しみの始まり。
私たちは皆、それぞれの地獄を、それぞれの足取りで彷徨っているるるるー」
という歌の美しいメロディと小人たちの和声と非整数次倍音が心地良くて俺は眠ってしまった。
※
卒業の日。
卒業式は極めてくだらないので行かないでおこうと思っていたが、先生が卒業証書だけ取りに来いと言うので式が終わる頃に学校に向かった。
学校に到着し、職員室に行ったが誰も居なかった。教室にも、体育館にも誰も居ない。
卒業式など本当は無かったのかもしれない。
街を見下ろす丘の上にある体育館の正面入口前から街を眺めながら、もうここに来る事は二度と無いのだろうなと思った。
※
気付いたら、遠くの星に来てしまった。
静かな美しい街の公園で、子供たちが楽しそうに遊んでいる。
鉄棒で遊んでいた男の子に話を聞くと、その男の子は四歳の時に小児がんで亡くなったそうだ。
この星では、戦争や虐待や飢えや事故や病気によって亡くなった幼い子たちが、何の不自由や心配も無く幸せに暮らしているらしい。
※
小賢しいインフルエンサー、
悪い政治家、
ヤバい新興宗教、
どえらい陰謀論、
いかれたネズミ講、
そして何故かそれらを信じてしまう人たち。
人間なんてそんなもの。
何でも自分の都合の良いように解釈して、
今、この場さえ気持ちよく過ごせればそれでいいのだ。
だって夢だから。
夢は突然なんの脈絡も無く場面が変わる。
こんな希望の無い悪夢にいつまでも執着していても仕方がない。
早くこの場面を終わりにするのだ。
※
異常の世界では、異常が正常で、正常が異常だ。
常識の尺度は単なる思い込みで、
善は悪に、悪は善に、いとも容易く入れ替わる。
陰と陽も、
快と不快も、
美と醜も、
幸と不幸も、
嘘と真も、
生と死も、
夢と現も、
入れ替わる。