印象・夜海
寝不足で全身の軟骨が唐揚げになってしまって、俺の体脂肪率は10%、あるかないか。
金曜日の夜は決まってルールのわからないリモート麻雀をする。一緒にやっているエヴェリーナもフローラもチャンさんもルールを知らない。俺たちは雰囲気で麻雀をやっている。
酒を全く飲まなくなった俺は今日も「いぶりがっこ・マヨ・トースト」を食べながらローズヒップティーを飲んでいる。
「何を食べてるの?」とフローラが言う。
「スモークドピクルスとマヨネーズのトーストだよ」
「私の国でも似たようなものを食べるわ。今朝も食べたところよ。あなた真似したの?」
「偶然の産物だよ」
そう、偶然の産物。
ほんの些細なきっかけから人間は生まれてしまったり死んでしまったりする。
エヴェリーナもフローラもチャンさんも、俺だってそうだ。
「私の勝ちね」とチャンさん。
「やっぱりチャンさんは強いね」
エヴェリーナもフローラも俺も、チャンさんに拍手と10 Pietを送る。500 Pietで1 Wassilyに交換出来る。
しかし俺たちはスキナーボックスに入れられたマウスではない。実際、ゲームの勝ち負けなんてどうでもいいのだ。
この巨大な魔法の蜘蛛の巣で繋がった壊れ易い夜を平和に過ごす為の戦いは、それぞれの精神で起こっている。
癒えるはずも無い孤独を持ち寄って、俺たちは暗い海原を小さな舟で彷徨い続ける。