大人とは、手に入れたと思っているものを手放したくなくてこの世で粘っている死に損ないの阿呆である。
今週のお題「大人になったなと感じるとき」
俺は一両編成の電車に乗って、
見知らぬ荒野を進んでいる。
電車には俺の他に乗客は誰も居なくて、
自動運転なので運転手も居ない。
電車は奇妙な音を立てながら揺れている。
チンチン、マンマン。チンチン、マンマン。
電車は時々、荒廃した無人駅に停まるのだが、
その度に俺は何か物を一つ手放して、
駅に置いて行かなければならない。
そうしなければ電車を進められないそうだ。
チンチン、マンマン。チンチン、マンマン。
着替えもギターも鞄も靴も猫も、
もう置いていってしまった。
スマホも財布も、着ていた衣服さえも、
置いて行かなければならなかった。
チンチン、マンマン。チンチン、マンマン。
今、俺は全裸でパンダの被り物を被っているのみだ。
次の駅で、パンダの被り物か、俺自身を手放さなければならない。
パンダの被り物を手放せば、
残るのは全裸の俺のみ。
俺自身を手放せば、
そこで旅は終わりだ。
どちらにするのか、まだ決めかねている。
チンチン、マンマン。チンチン、マンマン。
車窓を流れる荒野の風景と、
座席に座る俺の
陰茎がやけに揺れている。
チンチン、マンマン。チンチン、マンマン。